池波正太郎さんのこと

いやいや、前回の日記では、時代小説のほんの「さわり」だけをご紹介しましたので

物足りなく感じられる方がほとんどだと思います。

「時代小説って言ったら他にももっとあるだろ(怒)」と、

時代小説ファンに怒られないうちに、もっともっと(笑)

ご紹介したいと思います。

前回の最後に予告しました通り、今回は「時代小説・読み物」の続きで

大御所の池波正太郎さんをご紹介します。

池波正太郎さんのことを改めてご紹介しなくてもご存知の方が多いと思います。

鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』『真田太平記』など有名なシリーズものを

多く書かれているので、

「読んだことはないけど、テレビドラマで見たことはある」という方も

多いのではないでしょうか?

池波正太郎さんは上の代表作以外にも多くの作品を残されています。

すべて網羅できないかもしれませんが、池波さんの作品をいくつかのカテゴリーに

分類してみますね。

鬼平犯科帳』シリーズ(江戸時代・火付盗賊改もの)

剣客商売』シリーズ(江戸時代・剣士もの)

仕掛人・藤枝梅安』シリーズ(江戸時代・仕掛人香具師もの)

真田太平記』シリーズ(戦国時代末期〜・真田もの)

『忍の女』など(主に戦国時代・忍者もの)

『上意討ち(短編集)』など(江戸時代・新撰組・剣豪もの)

『あほうがらす(短編集)の中の『元禄色子』』など(江戸時代・赤穂浪士もの)

大別するとこんな感じではないでしょうか。

全体の印象としては、江戸時代を舞台に描かれている「読み物」が多く、

歴史的な事実もお話の横軸、もしくは縦軸に組み込まれている作品があります。

前回ご紹介した畠中恵さんや宮部みゆきさんが、あまり『歴史』とは関係の無いお話だったのに対し、

池波さんの作品は全く無縁ではありません。

こんな風に言うと、敬遠してしまう方がおられるかもしれまんせんが、

それも全く心配要りません(笑)

池波さんは、小説に専念される前までは劇作家として活躍されていたこともあったので、

お話の展開がよく、人をぐいぐいと惹きつけてしまうんですね。

よく古典の名作にありがちな「読書=忍耐」という式もあてはまりません(笑)

「面白くて、すぐに読める。しかも、人を飽きさせない。」

これが池波正太郎さんの作品全般に対して言えることだと思います。


みなさんの興味がそそられたところで、池波さんの作品をご紹介。

やはりシリーズものは外せないので、

鬼平犯科帳 01巻』(文春文庫)、『剣客商売 01巻』(新潮文庫)、『仕掛人・藤枝梅安 01巻』(講談社文庫)

新装版 鬼平犯科帳 (1) (文春文庫)

新装版 鬼平犯科帳 (1) (文春文庫)

剣客商売 一 剣客商売 (新潮文庫)

剣客商売 一 剣客商売 (新潮文庫)

新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一) (講談社文庫)

新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一) (講談社文庫)

シリーズものだと、「長編なのではないか?」と勘違いされる方がたまにおられますが、

これらのシリーズものは、すべて短編の集合体です。

ただし、普通の短編と違うところは、途中から読むと登場人物などが分かり辛いところです。

そのため、出来れば1巻目から読み進められることをお勧めします。


鬼平犯科帳』は江戸時代中期、寛政の改革1787年)の頃、実在する長谷川平蔵をモデルにしています。

実在の長谷川平蔵火付盗賊改方長官だったのは、1787年から1795年まで。

この時期は数年前に起きた浅間山噴火、それに伴う農作物の凶作などにより

経済が著しいインフレ状態にあり、世情が不安定になっていた時でした。

世の中がそんな状態のときは、凶悪な犯罪が増えるというもの。

火付盗賊改方こと「鬼の平蔵」が江戸市中を取り締まるのです。

実在した長谷川平蔵の資料はあまり残っていないみたいなんですが、

もしかしたらこんな人だったんじゃないかな、と「池波版鬼の平蔵」は

思わせてくれます。

「悪を征するには、悪人まがい(?)のこともする」

正義を貫くには、正しい手段、手法だけではなく、

悪の人脈を活かしたスパイ活動なども行う・・と

とてもスリリングで痛快な物語になっています。

実在の長谷川平蔵は高い犯人検挙率を誇り、またその速さでも有名でした。

彼は、拷問を伴わない、犯人の自供による逮捕をモットーにしていたようで、

その後の警察の在り方を問い直した人でもありました。

読んでみたくなりません?(笑)是非、初めの一話目だけでも読んでおくんなまし〜

(ちなみに『鬼平犯科帳』は文春文庫で24巻まで出ております)


次は、『剣客商売』。

剣客商売』は藤田まことさんの主演でドラマ化されている作品が

みなさんのお馴染みのところでしょうか。

主人公は秋山小兵衛と秋山大治郎。

この二人は親子で、小兵衛が父で藤田まことさんがされていた役になります。

この父子、どちらも剣の達人。

けれども(!)性格は両極端。

小兵衛は「粋な道楽爺さん」で、大治郎は「堅物な好青年」なのです。

時代は、江戸中期。老中田沼意次が政治の実権を握っていた頃。

そうですね、『鬼平犯科帳』よりほんの少し前ということになりますね。

秋山親子は、この時代に剣に命を駆けて、江戸で起こる様々な事件を

解決してゆくわけです。

こちらもとっても愉しいお話になっております。

是非、ページをめくってみて下さいね!

(『剣客商売』は新潮文庫で全16巻出ております。番外編なども数冊あります。)

 
最後は『仕掛人・藤枝梅安』シリーズですね。

こちらのシリーズは講談社文庫で全7冊と他のシリーズよりはやや少なくなっています。

これには理由がありまして、

一つには池波さんが亡くなられたために、シリーズを書き続けられなかったことが

あります。

もう一つの理由としましては、池波さん自身がインタビューか何かで、

「『藤枝梅安』シリーズは「殺し」という暗いテーマだから、鬼平や剣客に比べるとどうしても筆が重くなる」

というようなことを仰っておられました。

鬼平〜』や『剣客商売』が「正義のために」という大義名分があるのに比べ

仕掛人』シリーズにはややその辺の説得力に欠けるのかもしれません。

普段は鍼医者として何食わぬ顔で生活しながら、

裏では報酬をもらって「殺し」もする・・・

「正義の味方」とは無縁の怖−いお医者様ですね(笑)


ざっと簡単にご紹介しましたが、いかかでしたでしょうか?

実は、まだまだ書きたいことがありまして、

ええ、そうです。池波小説ファンの方なら、きっとお気付きのはず。

そうなんですよ。池波さんの小説を読むと

無性に食べ物が食べたくなるんですよ。

それも、湯豆腐とか白和えとかそんな素朴な和食が・・

池波さんは美食家としても有名な方で、

小説を書く合間の散歩ついでに、

よく食べ歩きをされていたそうです。

次は、池波正太郎さんの「美味しいお話」を少ししましょうかね。