旅で出会った作家〜大分県臼杵市編〜

chiaki50612010-01-19

もう、正月気分もすっかり抜けてしまったのですが・・

年末年始の休みに大分の別府と湯布院に行ってきました。

湯布院はお洒落なお店がいっぱいあって素敵でした。

別府はさびれていたのですが、とっても温泉がよくて素敵でした。

大分を満喫した3泊4日だったのですが、

実は今回の旅行で、臼杵市まで足をのばしたんですね。

臼杵市ってご存知ない方も多いでしょうか?

別府市の南の方にある町で、食べ物ではフグが有名。

また臼杵城というお城が市の中心部にあって、

現在は埋め立てられていますが、城のあった当時は海に囲まれているお城でした。

有名人だとグローブのKEIKOさんの出身地として知られているかもしれませんね。

でも実は、ある女性作家さんの出身地としても有名な所です。

そうなんです、今回は臼杵市出身の野上弥生子さんのことについてご紹介したいと思います。



本当のところは、わたくしも野上弥生子さんのことについては

臼杵市の文学記念館に行くまで殆ど何も知らなかったんですね。

書店員をやっていた関係で、お名前と何作かの作品が文庫であることだけ

知っていました。

今は、絶版になっている作品も多いと思います。

けれども、決して絶やしてはいけない、この方のスピリッツを

もっと多くの方に知ってもらいたいと強く思いました。

そのため、わたくし自身も只今勉強中という状態ですが、

みなさんにおススメしたいと思います。


野上弥生子さんは、『アルプスの少女ハイジ』の翻訳で

一番よく知られているかもしれません。

現在、岩波文庫から『アルプスの山の娘』で復刻版が出ているかと思います。

アルプスの山の娘―ハイヂ (岩波文庫)

アルプスの山の娘―ハイヂ (岩波文庫)

けれども、今回は野上さん自身の作品と、親交のあった作家さんたちに焦点をあててみたいと思います。

野上さんは14歳の時に東京に出てこられ、明治女学校に入学。

その後、夫となる野上豊一郎氏と結婚。

この夫となった方が、夏目漱石のお弟子さんだった縁で、

漱石先生に師事し、野上弥生子さんは小説を書くことになったんですね。

彼女は、どうしても小説家になりたかったという人ではなかったようで、

漱石先生に認められる作品であればそれでよかったようです。

99歳まで現役で作家をされていた方のスタンスとしては

ちょっと意外な感じですね。

私が野上弥生子さんに受けた第一印象は、

「とっても人との出会いに恵まれた方」ということでした。

生涯の先生とした夏目漱石ももちろんですし、

夫の同級生だった岩波茂雄岩波書店の創業者)、学者の寺田寅彦

後輩になる芥川龍之介、心の恋人だった中勘助など、

多くの著名な方と日常的に交流をされていました。

また、女流作家さんだと、宮本百合子湯浅芳子などと親交が深かったようです。

この辺りのことは、野上さんの日記を紐解けば更に詳しく分かるかもしれませんね。


野上さんの作品で、わたしが個人的に興味を抱いたのは、

『真知子』と『迷路』、そして『秀吉と利休』でした。

現在どれも新刊書店での取り寄せは難しい作品ですが、

過去には岩波文庫新潮文庫、角川文庫、中公文庫などで発売されていました。

(『迷路』はワイド版で岩波書店から発売中です)

そのため、図書館か古書を探されるのがよいかと思います。

『真知子』はその当時(昭和初期)の一番先駆者的な女性を描いた作品です。

今でこそ女性が政治家や企業家になっても肯定される時代ですが、

この当時は、女であるということだけで幾つもの壁があった時代です。

「真知子」は野上さんの性質の一部だったのではないでしょうか。

とても読んでみたい作品の一つです。

『迷路』もその当時(昭和初期、大戦へと向かう時期)の世相を批判した大作です。

こちらも『真知子』と一緒に読んでみたい作品ですね。


野上さんのことを調べると、

女性なのにとっても骨太な作品を多く生み出された方なんだなぁとしみじみ思ってしまいました。

『秀吉と利休』は歴史ファンにとってはとても興味深い作品なのではないでしょうか。

今でこそ、小説の題材として「秀吉」と「利休」は対比させて描かれることが多いですが

これはもしかすると、野上さんが一番最初に目をつけた方かもしれませんよ。

こちらも興味がそそられますね。

以上が、私が臼杵市に行き、野上弥生子さんと出会った(!)感想でした。

「女性である前にまず人間であれ」

ということばが胸に沁みる今日この頃です。